King of Varia

扉越しに賑やかさが伝わってくる。中に入ると、声がよりはっきり聞こえてきた。

「王様だーれだっ!」

ちらりと視線だけを向ければ、ローテーブルを幹部たちが囲み、その足元にはボトルが散乱している。全員それなりにアルコールが回っているようだ。いつも控えめなルッスーリアまでもが頬を赤くしているのを見て、ザンザスは少し面倒な予感がした。

なぜ王様ゲームなのか、その場にいる者は実は誰も覚えていない。気が付いたら集まっていて、酒の量が増えてきて、割り箸のクジが出来ていた。

基本的にノリのいい人間ばかりなので一度盛り上がると止まらない。一応マーモンとルッスーリアが誰かが暴走しないよう抑えていたのだが、マーモンはさすがに赤ん坊なので途中で寝てしまったし、ルッスーリアは王様になってレヴィとスクアーロを脱がせることに成功してからというものすっかり壊れている。よく鍛えられた二人の腹筋はなかなか彼のお気に召したらしく、するりと人差し指でなぞりあげるルッスーリアの表情はそれはそれは恍惚としたものだった。その一瞬だけ酔いが醒めた二人は命の危険すら感じたという。

ザンザスがそんな執務室を夜中になって訪れたのは、昼間ここでウイスキーを呷っていたときに上着を放ってきたからだ。夏なので上着など無くても構わないのだが、やはり自分の服をそんなところに脱ぎ散らかしておくというのは性に合わない。暖炉の上に畳まれているのは誰かがソファーから退かしたからだろうか。

「うししっ、俺キングっ!」

ベルが割り箸を高々と掲げて嬉しそうに笑う。

「ねぇ、ボスもやらない?」

「いい」

ルッスーリアは密かにザンザスまで脱がせることを目論んでいたのだが、あっさり断られ、頬を膨らませ身をくねらせた。しかしそんな色仕掛けではザンザスの気持ちは当然揺るがない。さっさと暖炉の前に向かい、上着に手を伸ばした。ベルの高らかな声がしたのはその時だった。

「じゃー2番と3番、べろちゅーね」

だんだん命令の内容がエスカレートしていくのがこのゲームの恐ろしいところである。そしてそんな命令が出るようになる頃には、参加者のテンションも妙な方向へ上がっていたりする。唯一正常な意識を保っているザンザスは興味深げにそちらへ目を移した。

「あっ、私2番」

即座に反応した2番はだった。思惑が外れたベルは自分と2番にすればよかったと舌を打ち、他の男たちの緊張は一気に高まる。3番は誰だ!?

「3番は俺だぜぇ」

ニッと白い歯を見せたのはスクアーロだった。レヴィが盛大に嘆く。そしてザンザスはそっと上着を手に取った。

「ん」

スクアーロが嬉しそうにの肩に手を添えると、は大人しく目を閉じた。近づく二人を周囲は黙って見守る。───ザンザスを除いては。

「ぶっ!」

ばふっ、とスクアーロの頬を打ったのは黒い布、ザンザスの上着で、間髪入れずその上から手のひらが押しつけられ、スクアーロの体は勢い余ってテーブルの上に倒れこむ。派手な音がする頃には、ザンザスはそ知らぬ顔での唇を塞いでいた。もちろん目を開けたは驚くが、その隙に差し込まれたザンザスの舌に翻弄され、耐え切れないといったふうに目を閉じる。スクアーロは突然覆い被せられた上着を払い除けながら起き上がるが、の口から漏れた甘い喘ぎに、飛び出しかけた文句を思わず全て飲み込んでしまった。

「ずるいよボス、俺が王様だったのに」

「うるせぇよ」

最後にちゅっとノイズを響かせて唇を離したザンザスは、上唇をぺろりと舐めて不敵に笑う。

いくらクジをひこうとも、ヴァリアーの王様はザンザスなのだ。

(2007.08.18) 実際、彼らの王様ゲームはもっととんでもないことになると思います。王族の血が流れそう。