unconscious

ファミリー間に揉め事があったとき、ボンゴレで最も忙しくなるのはヴァリアーだ。間違いねぇ。今回もやたらと任務が増えやがった。

完璧に任務を遂行するために必要なのは殺しの能力だけじゃねぇ、それなりに標的についての情報も必要になる。つまり任務が増えるということはそれに関する情報も増えるということだ。・・・が、それにしても、だ。この書類の量は何だ・・・?

俺は自分を取り囲むように置かれた紙の束にすっかり嫌気が差していた。これを最速で片付けるにはどうすればいい?誰かにやらせるか。誰がいい?・・・真っ先に浮かんだのはだった。そういえばあいつの報告書が一番読みやすいな。長期任務ばかり受けやがってなかなか屋敷にいねぇし、たまには閉じ込めてやってもいいだろう。

早速手元の受話器を取り、の部屋の番号を押した。やらせるなら早いほうがいい。確かあの女、また明日から長期任務に出るつもりだったよな・・・。ったく、屋敷に何か不満でもあんのかよ。住むのに何の不便もさせてねぇはずだぞ?・・・くそ、気に入らねぇ。

数回の呼び出し音の後、が電話に出た。

「もしもーし」

「俺だ」

何がもしもーしだ、呑気な声出しやがって。

「今すぐ来い」

それだけ告げて、返事も聞かずに受話器を置いた。

間もなくドアをノックする音が聞こえ、書類から目を上げる。

です」

「・・・入れ」

「失礼しまーす・・・」

遠慮がちにドアを開けて入ってきたは、おずおずと近寄ってきた。俺の不機嫌さを敏感に感じ取っているらしい。

「お呼びですか?」

「手伝え」

持っていたペンで書類を指差して言えば、意外だと言わんばかりの声が返ってきた。

「・・・・・・・・・は?」

「は?じゃねぇよ。やれ」

「あの、私、明日から10日間の予定で任務が・・・」

「レヴィにでもやらせりゃいいだろ。まともにデスクワークできる奴はお前しかいねぇ」

「・・・・・・・・・」

さすがにこれは言いすぎだが、こいつが一番手際が良さそうなのは事実だ。は少し悩んだ様子だったが、諦めたように口を開いた。

「分かりました。・・・じゃあ、重要でない書類だけ手伝います」

・・・重要でない書類、?まさか俺に重要な書類があるとでも思ってんのか?

「ほぅ。・・・言ったな?」

「え?」

こいつは使えそうだ。思わず口元が緩んだ。そんな俺とは対照的に、おそらく無意識に口元を引き攣らせていく。何も屋敷に監禁しようってんじゃねぇよ。たまには任務も与えてやるさ、体が鈍らねぇ程度にな。

1ヶ月経っても忙しさは続いていた。

そんな時、昼過ぎになって急な任務が2つ舞い込んだ。どちらもランクの高い任務だ。スケジュールを確認するが、空いているのはベルとルッスーリアとスクアーロ、どれも任務前であまり消耗させられない奴ばかりだ。ここは分担させた方がいいだろう。・・・くそっ、この忙しい時に余計な仕事増やしやがって。

談話室でポーカーに興じていたベルとルッスーリアを任務の1つに、部屋で寝ていたスクアーロには後で応援を向かわせると言ってもう1つの任務に追い出した。それからに電話を掛ける。は元々はスクアーロが射撃の腕を気に入って連れてきた女だ。それに、応援に行ける可能性があるのはしかいない。だがまだ任務中なら、・・・癪だが俺が出るか?

数回鳴らしても出ないので切ろうとした、その時だった。

「はいです!」

慌てた声が返ってきた。

「・・・急な任務が入った。今から行けるか?」

「分かりました、場所は」

急な、しかもランクの高い任務だけあって、まだ手元にある情報が少ない。その中から必要な情報を手短に伝え、受話器を置いた。・・・帰ってきたら、少し書類を減らしてやるか。

は任務が終わると必ず、何時に戻るかを連絡し、その時間きっかりに報告書を持ってくる。その習慣はあいつが俺直属の部下になった頃からのものだ。実際は予告した時間より早く屋敷に戻り、シャワーを浴びてから報告に来ているそうだ(とルッスーリアが言っていた。あいつはやけにに詳しい)。

急な任務は、2人でやらせたせいかどちらも早く片付いたようだ。は7時に戻ると連絡してきた。俺は書類に目を通しながら待っていたが、おかしいと感じたのは7時を5分過ぎた頃だ。あいつに限って遅刻はありえねぇ。試しに内線で呼び出してみるが、反応が無い。何より、直感が異変を告げていた。部屋を出た俺は、の部屋へと向かった。

途中、向こうからルッスーリアとスクアーロが歩いてきた。

「ちょうど良かったぜぇボス、報告書だぁ」

「・・・後でいい。それよりはどうした」

?あいつ俺より少し先に帰ったぜぇ?」

「私、屋敷に戻ってきたところを見たわよ」

「何時頃だ」

「6時過ぎかしら。何かあったの?」

それは俺が知りてぇよ。の部屋へ歩き出すと、すぐにルッスーリアが追ってきた。手に何も持っていないあたり、報告書はスクアーロに押し付けてきたらしい。

「ボス。、いないの?」

「報告に来ねぇ」

「おかしいわねぇ・・・」

どうやらそのままついてくるつもりらしい。構わずの部屋へと足を進めた。

ドアの前に立った俺はノブを掴み、勢いよく押し開けた。

「・・・・・・・・・」

途端目に飛び込んできたのは、床に倒れ伏した女の姿。状況を理解するのが一瞬遅れた、が、これは間違いなく。

!」

「ボス?・・・・・・・・・やだ、っ!?」

うつ伏せの体を抱き起こすと、コートに乾いた血が付いているのに気付いた。呼吸は浅く、速い。傷を負っているのかと思いコートを脱がせてみるが、中のシャツは真っ白だった。ネクタイを解き、きっちり止められたシャツのボタンを2つ外して、首筋に触れてみる。・・・熱い。ひどい熱だ。脈も速い。ぐったりして動かない体を抱き上げると、ベッドに寝かせた。

「おい、医療班連れて来い」

「分かったわ!」

後ろに控えていたルッスーリアに言うと、すぐに部屋を飛び出していった。

・・・・・・・・・医療班が来るまで、とりあえず頭でも冷やしてやればいいのか?

簡易キッチンに備え付けの冷蔵庫を開けてみると、以前はほとんど何も入っていなかったはずだが、最近屋敷にいる時間が増えたせいか中身が増えていた。その中に氷があるのを確認してからバスルームに入る。置いてあった洗面器の中に、綺麗に折り畳んで重ねられていたタオルを数枚掴んで放り込む。バスルームを出るとまた冷蔵庫を開け、氷も中に放り込み、最後に水を入れた。これでいいだろう。

を寝かせたベッドに腰を下ろし、洗面器をサイドテーブルに置いた。手を突っ込み、タオルを1枚絞る。冷てぇ・・・。・・・痛いほどの冷たさを感じてから、俺はふと気付いた。氷を適当に袋に入れて頭に乗せてやれば、それで済んだんじゃねぇのか?・・・だがこの方法しか思いつかなかった。今更だ。

の前髪を払い、タオルを額に乗せた。あんまり手が冷たいから両手での頬を挟むようにすると、じわりと手に熱が伝わってきた。この分だとすぐにタオルも温くなりそうだ。

半時間ほど経っただろうか、ルッスーリアが戻ってきた。

「ボス、連れてきたわよ!」

「・・・遅ぇ」

「ごめんなさい、でも腕のいいのを連れてきたわ」

俺が立ち上がりベッドを離れると、白衣の5人がを囲んだ。5人もいらねぇだろうと思ったが、あとは任せておけばいいだろう。俺はのデスクにあった書類を全て持って、部屋を出た。

執務室に戻ると、ソファーに鮫が泳いでいた。収まりきらない髪と足をはみ出させて寝息なんか立ててやがる。俺が戻ったことにも気付かず寝ているとは何様のつもりだ?書類をデスクに置いてから、髪を掴んで引っ張り起こした。

「─────っ!痛ぇ、何しやがる!」

「喚くな。誰がここで寝ていいと言った」

俺が向かいに座ると、スクアーロは顔にかかった髪をかき上げながら座りなおした。

、いたかぁ?」

「あぁ、部屋でぶっ倒れてやがった。今医療班がついてる」

「・・・働かせすぎたんじゃねーのかぁ?」

スクアーロが露骨に呆れた顔をした。ムカつく。ならてめぇの応援になんか行かせなきゃ良かったな、そして死ねドカス。テーブルに叩きつけてやろうかと思ったが座ったまま手が届く距離ではなかったので、足でテーブルを向こう側に思いっきり押してやったら、それを両膝に受けたスクアーロは顔を歪めて呻いた。

「それよりてめぇ、任務はどうした」

「言われなくても最終便で発つぜぇ。の好きそうな国外任務だぁ」

「・・・うるせぇ、用が済んだなら出て行け、邪魔だ」

立ち上がり背を向ける。書類を積んだデスクに向かうまでの間に、スクアーロは姿を消していた。

医療班の男が部屋に来たのは、それからすぐのことだった。の状態を報告に来たそいつは先程の5人の中で唯一高齢で、5人の代表者なのだろう。白髪に白髭をたくわえた、貫禄のある男だった。

「大きくなられましたな、ザンザス様」

「はぁ?」

開口一番、柔和な笑みでそう言った男に、俺ははっとガキの頃の記憶を思い出した。昔、風邪をひいた俺が診察を拒んで暴れだしたとき、怒鳴りつけてきやがった命知らずなじじいがいた。子守中を駆り出されたのだと言ってガキを連れて診察に来たそいつは、大人しくなった俺にこの笑みを見せたのだ。いずれぶっ殺してやるとその時決めたが、あれ以来十数年、一度も会うことのなかった男。それが今、目の前にいる。

「・・・・・・・・・てめぇ、あの時の・・・!」

殺気を込めたにも関わらず男の笑みは揺るがない。・・・さすが、大した奴だ。今更昔のことを蒸し返す気も失せ(そもそも理由がくだらねぇ)、俺は男を部屋に通した。

「風邪ですな。疲労で体が弱っていたのでしょう」

男はの状態を簡単にそう告げた。働かせすぎたんじゃねーのかぁ?そんなカスの声が聞こえてきた(うるせぇ黙れ)。

「2日も休めばすぐ元気になるでしょう。念の為部下を置いておきます」

「そうか・・・いや、5日ほど寝かせとけ」

俺が寝ていろと言ったところで、あいつは少しでも働こうとするのだろう。それなら医療班の診断として寝かせておけばいい。ふっと、男が笑った。今までの貼り付けたような笑みとは違う、嬉しそうな、可笑しそうな。

「何がおかしい」

「いえ、・・・ありがとうございます。孫娘に、優しくして頂いて」

「孫娘?」

今までの話から推測される女はただ一人だ。・・・つまり、この男が、のじいさんだってのか?

「・・・フン、似てねぇな」

面白ぇ、医療班のじじいの孫が暗殺部隊か。・・・待てよ、ならあの時のガキはまさか。

俺がはっとしたことに気が付いたのか、男はますます目尻に皺を増やして笑んだ。嘘だろ、あのガキがだと?ベッドに横になった俺に手を伸ばし、頬に冷たい手を押し付けてきやがったあのガキが。・・・そういえばその手が冷たかったのは、確か。

の部屋に入ったときは驚きましたよ。あの時あの子がしたのと同じように、貴方がタオルを絞って下さるなんて」

翌朝ベルが任務の前に、が目覚めたと報告に来た。いつの間に倒れたことを知ったのか知らねぇが、間違いなく情報源はルッスーリアだろう。

「ボスー、起きちゃったよ」

「何か不満か?」

「だって、眠り姫は王子様のキスで起きんのに」

ベルの妙な言動は今に始まったことでもないが、相変わらず理解できねぇ・・・。つーか、こいつ。

「初耳だな、てめぇに惚れてたのか」

「違うって。の王子様は俺じゃなくてボスだろ」

「はぁ?」

・・・あぁ、やっぱり理解できねぇ。俺がの王子だと?俺があいつに惚れているとでも言いてぇのか。どっちかっつーと逆だろ。

「もしかしてボス無自覚?それこそ王子初耳なんだけど!」

「ありもしねぇもん自覚できるか」

「ふーん・・・まぁいいけど」

ベルはまだ何か言いたそうだったが、これ以上言わない方が賢明だと判断したようだ。

「それじゃー行ってきまーす」

ひらひらと手を振りながら部屋を出て行くのを見届け、デスクに向かった。・・・昨日の夜からどうも疲れた。精神的に。

それからの数日はただ書類の整理をしていた。普段騒がしい奴らがいねぇと静かでいい。気付けば日が暮れている、そんな日が続いた。

・・・あぁ、あいつの様子でも見に行くか。ふとそんな気になったのは4日目の夜だった。もう日付の変わりそうな時間だったが、そろそろ体調も回復しているなら起きているだろう。・・・だが、そんな予想は見事に外れた。

は憎らしいほど気持ち良さそうに眠っていた。横に立った俺に気付く様子も無い。こいつは眠っている間は危険でない気配には全く反応しないらしい。殺気でも出してやれば飛び起きるのだろうが、無理に起こす気は起きなかった。

外見の割に中身の幼い奴だとは前から思っていたが、寝顔は外見までも幼く見える。・・・こいつとまさか、10年以上前に会っていたとはな。当時の顔は思い出せないが、ガキが弱い力で絞ったタオルは水分を落としきれず、雫は落ちなかったもののやけに額に重く感じたのを覚えている。もっとしっかり絞れ、言おうとした矢先に冷えた手を俺の頬に当て、「つめたい?」などと聞いてきたのだ。熱どころか、どうしてこんなガキに面倒見られなきゃならねぇんだという苛立ちすらも冷めていく気がした。当時のこいつはそんなこと知る由も無かっただろうし、・・・今はもう、何も覚えちゃいねぇんだろう。

俺はそっと部屋を出た。

・・・タイミングが悪いというのはこういうのを指すらしい。任務帰りのルッスーリアに出くわした。奴は俺が出てきたのがの部屋だと気付くなり、にやにやと笑いながら小声で話しかけてきた。

「あらボス、こんな時間にのお見舞い?」

「・・・うるせぇ」

「うふふ、大丈夫よボス、誰にも言わないから。明日も来てあげてね、には一番の薬になるわ」

寝てる奴に会っても薬にゃならねぇだろうよ。思ったが、口には出さずに部屋に戻った。

次の夜もの部屋に来てしまったのは決してルッスーリアに言われたからではない。またこんな時間を選んだのも、昼は報告に来たルッスーリアが「これからの様子見てくるわ」と宣言していったからだ。あいつらは女同士(と言えるのかどうか怪しいが)気が合うのか仲がいい。話し込めば何時になるか分からない。そんなところに混じって会話を楽しむつもりはさらさら無い。どうせまた気持ちよく眠っているのだろうが、それならそれで構わない。

ドアを開けると、大きな目が俺を捕らえた。

「・・・何だ、起きてたのか」

部屋に入り、ベッドに腰を下ろしての顔を見た。寝顔のような幼さはやはり感じられない。これが任務中となると更に違う顔を見せるのだから面白いものだ。

「何してた」

「え、っと・・・星を、見てました」

「はぁ?」

・・・。いや、星を見るなとは言わねぇが、なんつーか。もっとまともな理由はねぇのかよ。

「・・・つーかそれ、ルッスーリアのコートじゃねぇのか」

「あっ、ルッスーリアが星が綺麗だって教えてくれて、それで風邪ぶり返さないようにって貸してくれたんです」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

あいつか・・・。・・・・・・・・・どうせアレだろ、俺が昨日ここへ来たのを見たからだろ。起きてりゃ会えるだとか言いやがったんだろ。余計なことを。

「あの、ボス」

「あぁ?」

「・・・・・・・・・ありがとうございました」

話が見えねぇ。ここへ来たことに対して、か?

「ルッスーリアから聞きました。・・・倒れてたときのこと」

「・・・・・・・・・そうか」

・・・あの野郎、全部喋っちまいやがったのか。本当に余計なことばかりしてくれる。

「びっくりしました。ボスがそこまでしてくれるなんて思わなかったから」

「目の前で倒れられてりゃ仕方ねぇだろ。お前、俺を何だと思ってたんだ」

ふとの表情が和らいだ。

「だってボス、弱い人はかっ消すじゃないですか」

「任務もろくにこなせねぇ奴はいらねぇだけだ。一人で勝手に倒れてる奴までいちいち処分してられるか」

「・・・すみません」

まぁでも、倒れてんのがてめぇでなけりゃ、あそこまでしなかっただろうな。・・・だってそうだろ、あいつらじゃ重くて運んでやる気にならねぇだろ。マーモンは別だが。ベルも軽そうだが倒れてる時に近付く気にはならねぇな、いつ暴れだすか分からねぇ。助けてやって怪我させられんのは御免だ。

「そういえば書類、まだいっぱいあるんですか?」

「・・・それなりにな」

「また手伝わせて下さいね」

「あぁ、てめぇが寝てる間に終わっちまうかもしれねぇがな」

寝ている間にかなり減ったのは事実だ。とは言え、このままもう終わったと言えば無駄に凹みやがる。復帰したらまた少し手伝わせてやって、・・・久々に長期任務も、回してやったほうがいいか?

「なぁ、てめぇが長期任務を好んで受けたがるのは何故だ?」

「・・・好きだから、ですけど」

「その理由を聞いてんだよ」

「・・・話せば長くなりますので・・・」

言いたく無さそうな様子は十分に伝わってきたが、上司として多少知っといてもいいんじゃねぇか?・・・まさか男でも作ってんじゃねぇだろうな?こいつに限ってそれはねぇと思うが、こいつに男がいると考えたら急に苛々してきた。

「簡潔に言え」

促すとは少し考えてから口を開いた。

「・・・昔、色んな国に連れて行ってもらったことがあって。そのせいか、知らない場所を見るのが好きなんです。だから、です」

「・・・・・・・・・それだけ、か?」

「はい」

「・・・そうか」

の目は嘘をついている目ではなかった。純粋に物を見るのが好きだと、そう受け取っていいらしい。・・・あぁ、それなら、てめぇにいいもん見せてやるよ。誘われねぇ限りどこへ遠出したって見られねぇぞ、マフィアのパーティーなんかな。

「なら今度、ドイツの城へ連れてってやる。行ったことねぇだろ」

「無いですけど、・・・わっ!」

肩に掛かっていたルッスーリアのコートを取って床に落とすと、の頭を押さえつけてベッドに寝かせた。城の件はもう日時が決まってんだ、また風邪なんかひかれちゃたまらねぇ。

「まだ医療班には寝てろって言われてんだろ。星なんか見てる暇があるなら大人しく寝てろ」

しっかり枕に押さえつけてやれば何か文句の一つも飛び出すかと思ったが、じっとしている。このまま寝ちまうんじゃねぇか?もう寝てんのか?まさかな。

『眠り姫は王子様のキスで・・・』不意にそんな声が過ぎった。くだらねぇ、・・・・・・・・・起きてる時にキスしたって、戯れにしかならねぇよ。・・・そうだろ?

触れた唇は俺より冷たく感じた。馬鹿、病人が体冷やしてどうすんだ。あまり温度差を感じなくなったところで唇を離し、押さえていた手も離してやると、が慌てて大きな目を開けた。何故かそれに満足感を覚えた。

「・・・・・・・・・ボ、ス?」

戸惑うが俺を呼ぶ。・・・なぁ、てめぇ今どんな顔してっか知らねぇだろ。この程度で焦るガキのくせに、薄く開いた唇は相当色っぽい。

「何だ?誘ってんのか?」

「ちがっ・・・!」

途端に真っ赤になったの唇をもう一度塞いでやった。戸惑った瞳が揺れるのが面白くて見ていると、慌てて固く閉じられた。あぁ、勿体無ぇな。開けて見せろ、そう思いながら啄ばんでみても、ますますきつく閉じられるばかりだ。それなら、と一旦止めてみれば、こちらの様子を窺うように薄く目が開いた。・・・それでいい。てめぇは俺の部下だ、俺に従え。俺を見てろ。

、てめぇを最初に見つけたのは俺だ。

(2007.04.07) 「幻覚にしたって甘すぎる」ボス編でした。話を詰め込みすぎましたorz/2008.02.18修正。