8年の眠りについていたザンザスが目覚めたのはつい一月ほど前のことだ。

体と共に凍り付いていた激しい怒りは長い年月の間に増幅し、本人ですら手に負えないほどになっていた。無理も無い。若い彼にとって8年という月日はあまりにも長すぎたのだ。そして彼の知る部下も、女も、彼の記憶とはどこか違っていた。短かった誓いの銀髪は長く伸び、幼い共犯者は意識のうちにある自分と同じ歳になり、そしていつも傍にいた少女はすっかり大人の女になっていた。戸惑いも怒りへと変わった。しかし彼がどんなに怒りをぶちまけても、彼らは昔と同じように彼についてきた。

そんな中で彼は誕生日を迎えた。部下たちは部屋に来て、遠慮がちながらもそれぞれに祝いの言葉を述べた。嬉しくも何ともなかった。彼が最後に迎えたのは16歳の誕生日だ。その次が24歳だなんて、実感が湧かないどころの話ではない。

一通り幹部たちが部屋を訪れた後、最後にザンザスのもとを訪れたのはだった。

ヴァリアーのボスという地位を与えられたとき秘書として傍に置くことにした彼女は、ずっと秘書としてヴァリアーに残っていたそうだ。他の男を見つけてとっくに結婚していてもおかしくないのに、毎日ザンザスの部屋を掃除していたというのは、8年経ってますます生意気な口をきけるようになったベルフェゴールが話していたことだ。

「ボス、おめでとうございます」

「・・・あぁ」

ソファーに腰を下ろしたザンザスの傍に立ち、彼女はにこりと微笑む。隣に座るよう指示すれば、失礼します、と声がした。

秘書となった彼女に、ボスと呼べ、言葉遣いに気をつけろと、そう命じたのはザンザスだった。なかなか慣れない様子でいたはずなのに、今ではそれが当然のようになっている。昔のようにザンザスとは呼びたそうな気配も見せない。一番近くにいたはずの彼女までもが遠くへ行ってしまったような気がした。

「・・・ボス?」

彼女は心配そうに顔を覗き込んできた。その表情に偽りが無いことなど自分が一番よく知っているのに、心が許そうとしない。理不尽な怒りだと分かっている。彼女は望んでザンザスの知らない8年を生きたわけではない。

「何でもねぇ」

これ以上真っ直ぐな眼差しを受けることに耐えられず、ザンザスは彼女を抱き寄せた。昔と違う抱き心地が苦しかった。彼女の手がおずおずと背中に添えられる。傷を気にしているのだろうか、強く触れてこようとはしない。シャツ越しに手のひらの温もりを感じた。傷など気にしなくていい、口には出せずにただ強く抱きしめると、伝わったのか、彼女もきゅっと腕を回してきた。

「ボス」

昔と変わらない、小さいのによく通る声がする。

「すぐ、追いつきますよ」

奥歯を噛み締める。きつく目を閉じる。まぶたの裏では、10年前の彼女が微笑んでいた。

the present day

(2007.10.10) 誕生日だというのにこの暗さは・・・。現代のボスが一番不安定だと思います。