窓を伝って水滴が流れ落ちていく。雨音に混じって風が鳴るたび、外の木は大きく枝をしならせた。辺りが白く霞むほどのこの大雨は7月の観測史上最大の台風のせいだ。
「当分出られないね」
「・・・・・・・・・待つしかねーなぁ」
ホテルの一室でとスクアーロは台風が通り過ぎるのをじっと待っていた。任務で日本に来てみれば予想以上に台風の速度が速く、外で仕留めるはずだった標的は予定を全てキャンセルして家に籠もってしまった。仕方なく二人もホテルに缶詰状態だ。
「止まないかなぁ・・・」
「無理そうだぜぇ」
速答。窓辺で外の様子を見ていたはあっさりと期待を切り捨てられ、むっとした表情で振り返る。スクアーロは腕を枕にしてベッドに横になり、つまらなそうにテレビの台風情報を眺めていた。
日本に来ることなど滅多にない。さっさと任務を終わらせて土産でも買って帰るつもりでいたというのに、これでは予定より大幅に遅れるのは避けられない。いっそ標的のところへ乗り込んでみてもいいのだが、先程ザンザスに電話して事情を説明したら待機を命じられた。
「・・・暇」
口を尖らせたにスクアーロはちらりと視線を寄越した。表情豊かに不満を訴える弥恵を見て、目は口ほどに物を言うとはこのことか、と思う。そのままじっと見つめていたが、やがてにやっと笑みを浮かべると、おもむろに持ち上げた手でひらひらと手招きした。
「こっち来いよ」
「・・・・・・・・・」
招かれるままベッドへと歩み寄れば、手招きしていた手がゆるりと伸ばされ、の手を取った。引き寄せられるのに従ってもベッドに乗ると、不意にスクアーロが笑みを深くする。
「っ!」
ぐるりと視界が一転。急に強く腕を引かれたの体はあっという間にスクアーロに組み敷かれていた。油断すんなよぉヴァリアー幹部、と笑うスクアーロを、はますます不満いっぱいに見上げる。
「・・・何?」
「う゛お゛ぉい、この状態で“何”はねーだろぉ?・・・1ヶ月ぶりだぜぇ?」
軽く首を傾けるのに合わせて、銀髪が1房、さらりと落ちた。そういえばこうして二人っきりになるのは久しぶりだ、そう気づいたの目がくるりと大きくなる。その様子に、あぁやっぱり気づいてなかったか、とスクアーロは少し泣きたくなった。付き合って長いというのにいつまでも片思いのような気がしてならない。
「暇なら遊んでやるぜぇ」
「ちょ、ちょっと!まだ昼間・・・っ!」
押し止めようとするに構わず首筋に唇を寄せた。ここが弱いのは前から知っている。予想通り短い吐息が漏れたことに嬉しくなった。
「楽しもうぜぇ。時間はたっぷりあるんだからよ」
耳元に囁かれ、はスクアーロの背中に回した手で、きゅうとシャツを握りしめた。
テレビではアナウンサーが暴風雨の中で必死に中継を続けていた。嵐はまだしばらく続くらしい。