「今日はもういいぞ」
「はい」
隊長の声を合図に片付けた書類をクリップで留め、それを隊長に提出して、一日の仕事は終わり。この3年間───いや、私が隊長を手伝うようになってから、それはずっと変わらない決まりだ。何故なら、それ以上続けようとするとペンを取り上げられてしまうから。
「お疲れさまでした」
「・・・今日、帰ってくるのか?」
「はい。ちょっと遅くなるけど、って連絡が」
「・・・そうか」
スクアーロさんがあんなところで告白してきたものだから、隊長は当然一部始終の目撃者だ。だから私たちが付き合い始めたことを一番最初に知ったのも隊長。最初はすごく面白くなさそうな顔をしていたけど、最近ではこっそり私たちの様子を気に掛けてくれるようになった。こっそり、というのは、スクアーロさんには相変わらず冷たいから。それでも二人には二人なりの友情(と呼ぶのが一番近そうな何か)があるみたいなんだけど、私にはあんまりよく分からない。
本館の隣にある別館の一室が私の部屋。幹部以下のメンバーが暮らす建物だから本館に比べればかなり質素な部屋なんだけど、スクアーロさんは気にせずやってくる。今夜も任務の後に来ると連絡があった。
コンコン、とノックの音と同時、俺だぁ、と言う声がする。3日ぶりのその声が嬉しくて、私は急いでドアを開けた。
「よぉ゛、帰ったぜぇ」
「お疲れさまです!」
部屋に入ってくる彼からコートと刀を預かる。ちょっと新婚生活っぽいなぁって思ってるんだけど、彼が何も言わないから私も言わない。私だけそんなこと考えてるなんて恥ずかしいから。
「シャワー浴びますよね」
「・・・その前に、いいかぁ?」
「はい?」
着替えを用意しようとしたけど、急に真剣な声がしたので振り返った。・・・途端、彼の様子に心臓が跳ねた。目線を逸らしたまま言葉を探すような素振りがあの時と同じで、そして私も、何か期待してしまうのを抑えられなくなって、じっと彼の行動を見守る。
そうして右手でポケットを漁った彼は、私の目を真っすぐに見つめた。
「、手ぇ出せ」
反射的に利き手の右手を出すと、そっちじゃねぇと苦笑混じりに義手に左手を取られた。
「勘で選んじまったんだけど、サイズ合うかぁ・・・?」
言いながら彼は右手に持った指輪を私の薬指に通す。ちょうど指に収まると頭上で安堵の息が漏れ、見上げると、照れ臭そうな彼の笑みがそこにあった。
「一緒に暮らそうぜぇ、」
「・・・!」
涙がわっと溢れてくる。嬉し涙なんてなかなか流す機会のあるものじゃないよね、きっと。胸が苦しくて言葉が出なくて、代わりに頷くと、スクアーロさんはぎゅっと抱き締めてくれた。顔を胸に押しつけるとシャツがまだパリっとしていて、真新しいことに気付いたけど、汚しちゃいけないと思いながらも涙が止められなかった。