屋敷への進入成功率65%。
ヴァリアーすら踏み込ませない堅い守りの屋敷に篭っていた標的が、数ヶ月ぶりに外出する。そう連絡を受けたのは、寝る前にシャワーを浴びていたときだった。
「─────了解。スクアーロ、もうすぐ来るよ」
「おぅ」
は俺より一足先に現場に来ていた。既に部下を周辺に配置し、標的の動きを探らせている。耳につけたイヤホンには部下からの報告が逐次届いているらしく、さっきから口元のマイクに向かって独り言のように喋り続けている。部下と通信しているのは十分承知しているが、俺とほとんど会話できないのはまぁ、はっきり言ってしまえば不満だ。
広い屋敷の東館の屋根に潜んで本館の扉が開くのをじっと待つ。は部下に指示を出しながら構えたライフルの照準をじっくりと合わせている。その口元は薄く笑みを浮かべている。こいつのこういう顔を見るのは結構好きだ。虫も殺せないような顔をしたが垣間見せる狂気。殺し屋を天職とする人間の顔。間違いなく俺と同じ世界にいるのだと、満足感を覚える。
車が3台走ってきて、静かに玄関前に横付けされる。間もなく出てくるらしい。ふとが腕時計に目をやった。暗くて見づらい文字盤を月明かりにかざす。
「部屋を出たって。あと1分ってとこかな・・・」
「んじゃ行ってくるぜぇ。慌てて湧いてくる雑魚共は任せたぞぉ」
「了解。弾に当たらないように動いてね」
「そりゃてめぇの腕次第だろぉ」
見下ろせばはにっと楽しそうに笑った。いい面しやがる。
間もなく現れる標的に向け、いつでも飛び出せるよう姿勢を整えた。扉に神経を集中させる。強い相手と対峙するあの瞬間も好きだが、標的が姿を見せるのを待つこの緊張感もたまらない。
「スクアーロ」
「なんだぁ?」
「誕生日、おめでとう」
「・・・」
いきなり何を言い出すんだ。虚を突かれて振り返る。は手の甲をこちらに向けて片腕を持ち上げた。月光を浴びた二本の針は揃って上を向き、細い秒針がそこから分かれて進んでいく。日付が変わって3月13日、午前0時。・・・あぁ、そういえば、俺の誕生日か。
「気ぃ抜けるじゃねーか」
「ごめんごめん。でも、今言っとかなきゃって思って」
まるで先ほどとは別人のようなにこりと可愛い笑顔を向けられては、俺にはそれ以上文句を言うことなどできやしない。こういう、普通の女の顔を見るのも好きだ。つーか多分どんな顔してても好きなんだ。相当惚れてる自覚はある。泣き顔すら見てみてぇと思ったこともないと言えば嘘になる。
扉が開き、標的と護衛たちが現れた。さんきゅ、と一言告げ、俺はそいつらに向かって勢いよく地を蹴った。やけに浮かれた気分のまま刀を振るい始めれば、離れたところの男たちは俺に気付くか気付かないかのうちに次々に銃弾に倒れていく。の援護射撃だ。・・・と、あいつの存在を意識するなり、「おめでとう」の声があの笑顔と重なって蘇ってくる。顔が緩むのを止められない。
こんなニヤけた面の殺し屋に殺られるなんて、お前らちょっと気の毒だぜぇ。