「ちょっとスクアーロ!いつの間にと別れたのよ!?」

「うしし、振られちゃったわけ?」

昼前に任務から戻ってきたスクアーロに、待ち構えていたかのようにルッスーリアが駆け寄った。その後ろをベルフェゴールが、肩にマーモンを乗せて歩いてくる。突然の言葉にわけがわからず、スクアーロははぁ?と呆れた声で応じる。

「別れてねーし、振られてもいねーよ。何だよ急に」

「ならアレはどういうことなのよ!」

「アレって何だよ」

が昨日の夜からずっと、ボスの部屋から出てこないのよ!」

スクアーロの顔つきが変わった。そして、みるみる青ざめていく。口元が引き攣り始めた。

「う゛ぉ゛ぉぃ、マジかよ・・・」

「残念だったねスクアーロ、やはり君じゃボスには敵わないってことさ」

ザンザスがを気に入っているのは知っている。そしてがザンザスを慕っているのも知っている。だがスクアーロの知る限り、それは恋愛感情などというものとは程遠く、兄と妹のような関係だったはずだ。事実、自分とは付き合っていた。それをザンザスも知っていた。だから彼らが二人っきりで部屋にいたって特に気にするほどのことでもない。・・・はずだが、今は状況が状況だ。昼前になっても部屋から出てこないだと?一夜を共に明かしたとでも言うのか、自分が任務でいないうちに。

「・・・ボスは」

「ボスも部屋から出てこないってさ。レヴィが慌ててるぜ」

慌てるべきはむしろ俺だ、スクアーロはそう思った。確かめに行かなければならない。まだ何かあったとは決まっていない。

「・・・様子、見てくる」

銀髪をなびかせ足早に歩き去ったスクアーロを、3人は薄っすらと笑みを浮かべて見送った。

執務室の前でレヴィが固まっていた。

「おい、何やってんだ」

「・・・」

スクアーロを見るなり、はっと表情を変えたレヴィ。それまでの不安そうな面持ちは消え、垂れていた眉がきっとつりあがった。この男がスクアーロをやたらと敵視するのは今に始まったことではないが、と付き合うようになったここ数ヶ月、ますますキツくなったのを感じている。どうせ部屋から出てこないボスをどうしたらいいのか悩んでいるのだろうと見当をつけ、スクアーロはさっさと執務室のドアを叩いた。

「う゛ぉ゛い、寝てんのかぁ?」

返事は無い。ノブを掴んだスクアーロは、レヴィが止めようとするのも構わずドアを押し開けた。返事が無ければ決してドアを開けないレヴィに対し、スクアーロは普段からノックもしないことの方が多いくらいだ。今回は一応声を掛けてから入っているだけマシだろう、とスクアーロは思う。それもこんな時に。

執務室に人の姿は無かった。やはりまだ寝ているらしい。

(・・・二人で、か?)

苛々が募る。殺意とまではいかないのは相手がザンザスだからかも知れない。ザンザスはスクアーロが一生従うと決めた唯一の人間だ。だからと言って惚れた女を譲ることなど出来ないが、・・・だがもし、がザンザスを選ぶと言うのなら。

執務室の隣にあるザンザスの私室へと向かおうとすると、突然その内側からドアが開けられた。30センチほど開けた中からザンザスが顔を出す。上半身に何も纏っていないことに軽く動揺しながらも、その顔がやけに疲れて見えて、スクアーロは思わずザンザスの心配をしてしまった。

「・・・どうしたぁ?」

「てめぇのせいだ」

即座に返されたのは身に覚えの無い非難の声だった。何の話だ、と問おうとするより先に、見れば分かるとばかりにザンザスはドアを開け、スクアーロを中へ入るよう促した。

「・・・・・・・・・」

テーブルに散乱した大量の酒のボトル。・・・つまり起きてこなかったのは二日酔いのせいだ、と?なら何故それがスクアーロのせいなのか。

の愚痴に付き合ってたらこうなった。あの馬鹿、俺が止めるのも聞かねぇで」

ザンザスはどちらかといえば飲ませて潰すタイプだ。その彼が止めたということは、一人で勝手に相当の量を空けたのだろう。スクアーロは少し青くなった。

「・・・は?」

「そこだ」

そこ、とザンザスが顎でしゃくって示したのは、ザンザスのベッドの上だ。広いベッドの端で一箇所、毛布が盛り上がっている。スクアーロが近づいて毛布を捲ると、ザンザスのシャツらしき白い布を掴んだが丸まって眠っていた。服はきっちり着ている。ザンザスが半裸な理由に察しがついたスクアーロは、ほっと胸を撫で下ろした。

「・・・手は出してねぇ、な?」

「抱き枕にはさせてもらったがな。愚痴に付き合ってやった対価だ」

すぅ、と寝息を立てるにそっと手を伸ばし、腕を自分の首に回させて、なるべく振動を与えないように注意しながらスクアーロはの体を抱き上げた。ふわりとアルコールの香りが漂う。起きたら大変だろうな、と顔をしかめると、がそっとスクアーロに頭をすり寄せてきた。可愛い仕草にふと笑みが漏れる。それを見たザンザスは、フン、と鼻で笑った。

「いい気なもんだな、てめぇが愚痴の対象とも知らねぇで」

「何だとぉ!?俺が何したっつーんだよ!」

「何もしねぇから不満なんだとよ」

「─────っ!」

「分かったら失せろ。痴話喧嘩ならよそでやれ」

言葉に詰まったスクアーロにザンザスは、付き合っていられないとばかりに、しっしっと手で追い払う仕草をした。渋々スクアーロは部屋を出ようとする。

「そういやレヴィが廊下で待ってたぜぇ」

「今日は休むと伝えておけ」

「・・・了解、ボス」

原因がどうやら自分らしいと分かった上、伝言を伝えてやればレヴィに力いっぱい睨まれ、それも腕にすやすや眠るなんか抱えてるもんだから余計に殺意の篭った眼差しを向けられて、スクアーロはすっかり不機嫌だった。それもこれも、あいつらが余計なことを言わなければ。

「あらスクアーロ、もう取り返してきたの?」

の部屋へと歩いている途中、現れたのは例の3人だった。それも、全て知っている、という顔で。

「・・・てめーら、かっさばくぞぉ」

「何よぉ、私たち嘘はついてないじゃない」

を信じてやんないスクアーロが悪いんじゃん」

「思い込みも甚だしいね。がボスと浮気するとでも思ったのかい?」

返す言葉が無い。確かに信じてやれなかったのかも知れない。

「ちゃんとの不満を聞いてあげることね」

「・・・分かってる」

を部屋のベッドにそっと横たえる。きっと目が覚めたら頭が痛いとうるさいことだろう。そうしたら水を飲ませてやらなければならない。それから不満を聞いてやろう。・・・何もしないのが不満だとザンザスからは聞いたが、・・・大事すぎて扱い方が分からないなどと言ったら、君は笑うだろうか。

そして君は、
僕を許してくれるだろうか

Thanks:説明長文お題
(2007.04.01) レヴィは誰より可哀想な役どころだと信じてます。