何の曲か分からないけど、聞き覚えがあるから、多分バッハとか有名な作曲家の曲なんだろう。

最初はレコードか何かかと思ったけど、どうも違う。そうして、そういえば談話室に古いピアノがあったことを思い出した。調度品として部屋に馴染んではいるんだけど、今までにその音色はベルが弾く「猫踏んじゃった」くらいしか聞いたことがなかった。

任務のときより緊張してつい気配を消してしまった。私がドアの前に立っても音色は途切れずに続いている。

この部屋に入るのなんて幹部に限られてるから、当然音の主も幹部に違いない。ベルは猫を踏むのが限界だし、マーモンは体格からして無理。スクアーロとレヴィはまず音楽に縁が無さそう。じゃあボスかルッスーリア?・・・この二人だったらルッスーリアしかないよね。

想像を巡らせながら私はドアに手をかけた。息を止め、細心の注意を払って、物音を立てずにほんの少しだけ隙間を作る。逸る気持ちを押さえてそっと中を覗き込み、少しずつ視線を床から上へとずらしていく。赤い絨毯の上に黒い椅子の足があって、その上にはグレーのポロシャツを着た背中が見えた。さらに視線を上へ。・・・あの逆立てた黒髪は、・・・・・・・・・嘘、レヴィ?

予想外だ。一番ピアノなんか似合わないし弾けなさそうなレヴィがそこにいた。あんまり上手いからやっぱりレコードでもかけてるんじゃないかと疑ってしまったけど、確かにレヴィの指が鍵盤を弾いている。

その時、急にレヴィの手が止まった。気付かれた!?思わずいつでも逃げられるように身構えてしまった。や、ここまでコソコソする必要はないんだろうけど・・・。

息を潜めて様子を伺っていると、再び手が動き始めた。さっきのとは全く違う曲調だけどやっぱり聞き覚えがある。・・・最近よく聞くかも?とにかく上手いことには変わりなくて、私はこっそりその音色に聞き入った。

最後の音が余韻を残して消えていく。1曲弾き終えたレヴィは、ゆったりとした動きで鍵盤から手を降ろした。私はといえば、拍手したくなる手でぎゅっとドアを掴みながら、レヴィのあまりのギャップに不覚にもときめいていた。すごい、どうしよう、レヴィが、あのレヴィが格好良い・・・!

「・・・・・・・・・

ぽつり、振り返りもせずレヴィが呟いた。やだ、気付いてたの!?びっくりしたけど、でもレヴィも幹部だもんね・・・バレてても仕方ないか。でもそれなら言ってくれればいいのに!

「レヴィ?」

「―――――ッ!」

「!?」

何だって言うの。返事をしたらレヴィはものすごい形相で勢い良く振り返った。勢い良すぎて椅子から落ちそうになってる。やっぱりいつものレヴィだ、と少し残念だった。

「い、いつからそこにいた?」

「えーと・・・さっきの曲が始まる前から、かな」

「・・・・・・・・・」

「気付いてたんじゃないの?」

「ぬぅ・・・」

よく分からないけど、気付いてたわけじゃなさそうだ。・・・じゃあ、私を呼んだのは何だったの?

数日後、任務帰りのカーラジオからあの曲が流れてきた。どんな歌詞かと興味本位から耳を傾けた私は、もしかしたらレヴィの気持ちに気付いてしまったかも知れない。

きみがすき

(2007.07.28) やっぱりレヴィにピアノは似合わないなと思いました。