Killer

男は焦りと興奮と、そして抑えきれない恐怖のために震えていた。その原因は女を人質に取るという自分の行為ではなく、目の前で悠然と笑みを湛える二人の男にあった。

「俺が仕留めてあげよっか?」

「てめぇは手ぇ出すな」

「りょーかいっ」

金髪の少年は構えていたナイフを玩具のように弄び始めた。もう一人の男は、やけに落ち着いた動きでマガジンを交換している。身内の女が人質に取られ、目の前でナイフを突きつけられているというのに、この余裕は何だ?何故そんなに笑っていられる?腕の中の女ですら微塵も動揺を見せないのだ。男には理解できなかった。

「おい

「はーい?」

「好きなところを選ばせてやる。どこがいい?」

両手に銃を持った男がすぅと両腕を持ち上げた。二つの銃口を向けられ、男は思わず片足を後ろに引いた。冗談だろう、女ごと撃つというのか?これは人質になどなり得ない、その程度の女だったのか!?

「どこでもいいですよ。あ、でも、できれば顔に傷は付けない方向で」

「めんどくせえ注文出すんじゃねぇよ」

「じゃあ最初っから聞かないでくださいよ!」

二人はとても今の状況とは似つかわしくない会話を繰り広げ、それを少年は面白そうに見ている。こんな親しげに話しているくせに、それを敵もろとも殺してしまえるのか?女もそれを当然のように受け入れるというのか?・・・当然?奴らにとって、これが当然?男は戦慄した。少なからず生きてきた裏社会、こんな奴らまでも同じ世界にいたなんて!

「顔はせいぜい自分で守るんだな」

銃口がふっと下を向いたことに男が気付いたその瞬間、足元に立て続けに銃弾が打ち込まれ始めた。男は慌てて女を連れて後ろに引く。途中で足を弾が掠めたのか女の動きが鈍ったが、構わず引きずるようにして後ろへ下がった。

やがて二丁分の弾丸を撃ちつくした男は、今度は素早くマガジンを入れ替える。そうして次は銃口をやや高めに上げた。逃げなければ、そう思った男の耳にまた新たな銃声が数発響く。

しかし今度は銃声だけではなかった。何かが割れる音。男は上を見上げる。───シャンデリアか!気付いた途端ガラスの破片が降り注いできて、男は思わず両腕で自らの頭を抱え込んだ。それが彼の命取りとなったことは言うまでもない。女はさっと転がるようにしてその場を離れ、とても足を痛めたとは思えない動きで二人の下へと駆け込んだ。

あらかたガラスが散り終えて、頭を抱えたままの男に、ジャリ、と破片を踏みしめる音が聞こえた。一歩一歩確実に近づくそれに恐る恐る顔を上げた男は、最期に、微笑に包まれた凄まじい殺意を見た。

「もう、顔に傷付けないでって言ったじゃないですか!」

「自分で守れっつっただろーが」

三人は何事も無かったかのように帰路についていた。女は出来る限り素早く逃げたのだが、男に捕らわれていたこともあって動きが遅れ、額と頬に僅かな切り傷を作っていた。

「どうせすぐ消えんだろ、それくらい」

「そうですけど、」

「残ったら責任取ってやるよ」

「・・・」

女はきょとんとして、それから照れたように目を泳がせながら、男にぴたりと寄り添った。男も満更ではない様子で女の肩を抱く。後ろからそれを見ていた少年はにぃと口角を吊り上げた。

「はいはい、ごちそーさまっ」

(2007.10.12) 小五郎のおっちゃんのアレをボスでやろうとした結果。