「ボス」
あぁ?と振り向く彼は、口調の乱暴さとは裏腹に笑みを浮かべていた。その顔を向けられるたび、私はとても幸せな気持ちになる。いつからこんなに彼のことを好きになってしまったのだろう。続く言葉は、何の躊躇いも無く自然に口から出てきた。
「・・・好きです」
ドン、と前後に揺すられるような衝撃に、はっと現実に引き戻された。目を開けた先にはガラス越しに見慣れた明かりが見え、車が屋敷に着いたと分かる。なら今の衝撃はブレーキによるものか。・・・やってしまった。
「─────結構なご身分じゃねぇか、なぁ?」
地を這うような声にびくりと肩をすくめながら左に視線を移すと、ボスはハンドルを握り締めてこちらを睨んでいた。クッと吊り上がる口元はとても魅力的なのに、今はものすごく怖い。
「俺の運転はそんなに寝心地良かったか?」
「っ、すみません・・・!」
あぁ、なんて失態!上司の運転する横で居眠りどころか夢まで見てる部下がどこにいるっていうの!(ここにいるんだけど!)
震えそうになる手で慌ててシートベルトを外し、ドアに手を掛ける。開いた隙間から足を一歩踏み出したところで、不意に後ろから肩を掴まれた。
「何でしょう・・・?」
「ぶはっ、そんなビビんなよ」
恐る恐る振り向いた私の様子がそんなに怯えていたのか、ボスは可笑しそうに笑い出した。あれ?怒ってないの?
「怒っちゃいねえよ。てめぇの大胆告白に免じて許してやる」
「はぁ、ありが─────・・・!?」
ちょっとボス!大胆告白って何!?・・・・・・・・・まさか、あれ、寝言で言っちゃった・・・!?
かあっと耳まで一気に熱くなってきた。信じられない!よりにもよってあんなこと、しかもボスに聞かれてしまうなんて!
ぐっと肩の手に力が篭るのを感じた次の瞬間、ボスがこちらに身を乗り出してきて、あっと思った次の瞬間にはちゅっと音を立てて口付けられた。
「前言撤回ってのは無しだぜ、?」
頭が真っ白になった私の体は、ボスによって再び車内へと引き戻された。