「・・・呆けた面してんじゃねぇよ」
ひとしきりキスを堪能して唇を離したザンザスは、が真っ赤になってぽかんと自分を見つめるのに気付いた。
「だ、って・・・!」
「・・・嫌だったか?」
問えばは慌てて首を振る。嫌がっていないことくらい最初から分かっていたが、こうも素直に否定してくれると気持ちのいいものだ。クッと喉の奥で笑い体を起こしたザンザスは、の腰のあたりまで掛かっていた布団を捲ると、ごろんと隣に寝転んで肩まで被りなおした。驚いてベッドの端に逃げようとするだが、狭いベッドではそんなに距離は取れない。あっさり捕まえて腕の中に閉じ込めると、その体は緊張からか強張っていた。
「」
「・・・はい」
「寝る」
「!?」
しっかり体を抱いたまま目を閉じる。倒れていたのを運んでやったときにも思ったが、こうして抱きしめてみると細さが良く分かる。こんな体でよく暗殺部隊など務まるものだ。腕枕をしている側の手で髪を、反対の手で背中から腰のあたりを撫でていると、少しずつ緊張が解れていった。
「・・・ボス?」
「あ?」
の呼びかけに、目を閉じたまま応じる。目を開けるのが面倒になったのは、どうも寝心地がいいからだ。
「・・・どうしたんですか?急に・・・」
こうして一緒に眠ろうとしていることだけを訊いているのではないのだろう。どうして突然キスなんか、きっと訊きたいのはそこからだ。
「してぇから、だ」
理由など簡単だ。キスしたいと思ったからした。抱いて眠りたいと思ったから布団に潜り込んだ。
「それだけじゃ不満か?」
「・・・」
目を開けてみると、はまだ納得のいかない顔つきだった。尤もなことだ。突然部屋に来た上司がキスして布団に潜り込んでくるなど、いくらそれが自分の好きな相手でも。
ボスは私のことどう思ってるの?したい、ってことは、そういうことなの?ボスが私を好き?そんなまさか。でも。考えるうちにだんだん難しい顔になっていく。
「余計なこと考えてねぇで寝ろ。この俺が添い寝してやってんだ、光栄に思え?」
にやりと笑って言えば、はまた頬を赤くした。あぁ、こいつ相当俺に惚れてやがる。今更ながらにザンザスはそんなことを思う。気付いていなかったわけではない、が、こうしてはっきりと意識したのは初めてかもしれない。
・・・なら自分のに対するこの感情は?が何か特別だということに気付いていなかったわけではないはずだ。・・・はっきりさせておくべきだろうか。けれど、こうして自分だけの腕に囲っていたいと思うのは、好きだとか愛してるだとか、そんな言葉で表せるものなのだろうか。
(・・・あぁ、めんどくせぇ。こいつが俺に惚れてんならそれでいいじゃねぇか)
抱き寄せる力を強め、今度こそ眠るために目を閉じる。それを見ても、まだ少し納得がいかないながらも目を閉じた。ザンザスの気持ちは分からないが、それでも今、抱きしめられて幸せなことに変わりはない。ただの気紛れだとしても、そんなザンザスに惚れたのはだ。
そのまま二人は眠りに落ちた。明日からまた、いつもと変わらない日々が始まる。