木漏れ日が髪とティアラに降り注ぐ。私の好きな金の髪は今日も憎ったらしいほど綺麗で、そして私は今日もここから眺めてるだけ。だって、近付いたら起きちゃうでしょう?
「君も飽きないね」
「・・・なんだ、起きてたの」
ふわり、顔の横に現れたのはマーモン。幻覚だっていうのはすぐに分かった。だって本体は、窓の下、ベンチで仰向けになってるベルのお腹の上にいるんだから。
「大丈夫だよ、ベルは寝てるから」
「そう」
安心して、また私は窓の下へ視線を戻す。幻が軽く溜息をついた。
「コーヒー、冷めてるよ」
「・・・そう」
まだ半分も飲んでいなかったけど、淹れ直す気にもなれなくて放っておくことにする。気持ち良さそうに寝てるベルを見てるとつい考え事の方に集中してしまっていけない。せっかく談話室には休憩に来てるのに、余計に疲れてどうするんだろう。
「諦めなよ、なんて、僕は言わないけどね」
「うん」
「さすがに気の毒には思ったりするよ」
「・・・同情するなら金をくれ」
笑ってそう言ったらマーモンの口が可愛らしくへの字に曲がった。それは金をくれって言われてムッとしたからじゃなくて、本気で私を気の毒に思ってるって感じ。やだ、マーモンに憐れまれるなんて私、相当やばいんじゃない?
「君には感心するよ」
「どうも。・・・私もびっくりしてる。ここまで諦めがつかないなんて初めてだから」
ティアラがきらりと光を反射して、私はちょっと目を細めた。初めてベルを意識したのはいつだっただろう。気付いたら好きになってた。まぁ、その瞬間に失恋したわけだけど。
「ね、マーモン」
「何だい?」
「ベルは女の子を好きになったりしないのかな」
「・・・そうだね。そういう感情は持ち合わせていないんじゃないかな、今のところ」
「持たせたいなぁ・・・」
自分の髪を指に絡めてみた。スクアーロに負けないくらい丁寧に扱ってる自慢の髪だ。それに触れる指だって、爪だって、毎日の手入れは欠かさない。全部ベルのためにやってることなんだよ。・・・気付いてくれないけど。
ベルにとっての私は共同生活を送る仲間の一人。もちろん仲良くやってるし、同業者として力を認められてるのも感じる。それはすごく嬉しいこと。だけど私には足りないの。ねぇ、それ以上を求めることは贅沢?
「私、魅力無いのかな」
「よく言うよ。またどこぞの御曹司を振ったらしいじゃないか」
勿体無い、と付け加えるのも忘れない。マーモンに言わせれば、玉の輿の機会を何度も捨てて王子様を待ってる私は理解できないんだそうだ。
「君は十分魅力的さ。・・・ただ、相手が悪かったね」
「致命的ね」
肩にそっと小さな手が触れた。優しいのねマーモン。
「マーモンを好きになったらよかった」
「ベルよりはマシだっただろうね」
私の気持ちにすら気付いていないベルと違って、きっとマーモンならきっぱり振ってくれるはず。そういう点ではボスやスクアーロもそうだと思う。レヴィは・・・だめだ、きっと私を気遣って悪い方に行ってしまう。優しい人だから。
「僕はそろそろ戻るよ」
すぅっと姿が薄くなって、幻は消えていった。ありがとうの代わりに窓の下へ小さく手を振ると、ファンタズマがぴょこんと跳ねた。
ベルはすっかり夢の中。私はあとどれだけ、あの寝顔を眺めているんだろう。